精神病患者の身体拘束と、それによる医療訴訟について

毎月読んでいる日経ヘルスケアの連載に「判例に学ぶ医療・介護トラブル回避術」がありますが、最新号である8月号に、「身体拘束を行った患者が死亡 二審では病院に過失ありと判断」という興味深い記事が掲載されていました。

訴訟の内容を要約すると、

・統合失調症の診断で男性が精神病院へ入院した。

・看護師への暴行や暴言、多動、虚言などが多く見受けられたため、ベッドへの拘束を実施した。

・拘束が原因となり男性はPTE(肺血栓塞栓症)を発症し、死亡した。

・一審では病院側の過失なしとされたものの、二審で過失が認められ、病院は3600万円の支払いが命じられた。

という内容です。

ということで今回は、病院や福祉施設における身体拘束について書いてみたいと思います。

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身体拘束の基準

そもそも、病院にて身体拘束を行うこと自体は適法とされていますが、それには3つの基準があります。

① 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
② 多動又は不穏が顕著である場合
③ その他、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

以上の条件に当てはまらない場合、患者に対して身体拘束を行うことはできません。

今回の事例では

概要を見る限り、少なくとも素人目には適法であるかのように思えますし、実際に一審では現場の医師の裁量が認められ、原告の請求を棄却しています。

暴行や暴言の内容も、

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など、かなり過激なものが多かったため、身体拘束は適当であるように思えます。しかし、二審では上記の3つの条件に当てはまらないと判断された事例です。

身体拘束についてのニュース

2017年5月に、ニュージーランド人の男性が神奈川県内の精神科病院で身体拘束を受け、その後亡くなったというニュースに覚えがある人も多いことと思います。

日本の精神科病院で外国人男性が急死 身体拘束の影響か (buzzfeed.com)

それに伴い、全国の精神科病院での身体拘束の実態が浮き彫りになり、世論でも問題として扱われるようになりました。そして、上記の男性の遺族らにより、身体拘束の禁止を求める団体の設立にまで至りました。

精神科の24時間身体拘束禁止を 遺族らが団体設立:朝日新聞デジタル (asahi.com)

身体拘束を受けた人は、過度に人権を侵害されるような扱いがトラウマとなることも多いようです。「死にたい」と軽く口走ったが最後、「患者の命を守る」という名目で拘束され、深く傷ついてしまう患者もいます。

急速に増える精神科病院での“身体拘束” – 記事 | NHK ハートネット

もちろん、被害者目線でのフィルターもかかっているでしょうから、このような方の発言をすべて鵜呑みにすればいいというものではありませんが・・・

最後に

一方で、身体拘束を完全にゼロにすべきかというと、私はそうは思えません。錯乱して暴れまわった患者が自身や職員、他の患者も巻き込んで被害を出す可能性もあるからです。

過度に身体拘束をせず、人に危害が及ぶなど本当に必要だと考えられる場面で、最後の手段として用いることが理想だと思いますが、そんなに難しいことなのでしょうか。

難しいんだろうなあ

コメント

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