もうすぐ土用の丑の日!絶滅危惧種のウナギを食べていいの?「結局、ウナギは食べていいのか問題」を紹介

生き物

こんにちは、線香花火です!

もうすぐ土用の丑の日ということで、ウナギを予約した方や、もう食べた方もいることと思います。

その一方で、「ウナギは絶滅危惧種だって聞いたけど、なんで普通に売ってるの?」「ニュースでは今年は豊漁だって言ってるけど、本当に少なくなってるの?」など、ウナギの絶滅について考える人も年々増えているように感じます。

今回は、そんな方々の疑問に答えるのにぴったりな、海部健三先生(中央大学)の「結局、ウナギは食べていいのか問題」(以下、本書)を紹介したいと思います。本書は2019年に出版された書籍であり、比較的新しい学術的知見を知ることができます。

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本書の構成について

本書は、以下の8章で構成されており、それぞれの章でQ&A形式でウナギについての疑問に答える形となっております。

1 ウナギは絶滅するのか

2 土用の丑の日のウナギ――ウナギを食べるということ

3 ウナギと違法行為――密漁・密売・密輸

4 完全養殖ですべては解決するのか

5 ウナギがすくすく育つ環境とは

6 放流すればウナギは増えるのか

7 ワシントン条約はウナギを守れるか

8 消費者にできること

Q&A形式でよくある疑問に答えつつ、それについて詳しく筆者の考えを述べるという形式をとっており、普段そこまで本を読まない私にもわかりやすい内容でした。

(例えば、「3 ウナギと違法行為」では「シラスウナギ(ウナギの稚魚)はなぜ密輸されているのですか?」という疑問に対し「日本と台湾とが、互いにシラスウナギの輸出を制限したことが理由の1つです。自国の資源を囲い込もうとして、かえって状況を悪化させてしまいました」と答えつつ、実際に日本や台湾、さらには中国本土や香港を巻き込んだウナギ問題について言及しています)

また、本書では「ウナギは食べていいのか」というタイトルにもなっている問いに対して明確な答えは出されていません。しかし、ウナギを取り巻く数々の問題や、消費者にできることのヒントを提供する本書は、ウナギの食文化が強く根付く日本人にとっては、一読の価値のあるものだと思います。

実際に読んでみて思ったこと

私自身、ウナギが絶滅危惧種でありながら密漁が絶えず行われている現状を知ってから、ウナギを自分から買って食べたことはありません。出されたときはもったいないので食べていますが・・・

それくらいにはウナギの絶滅問題には関心を持っているつもりでした。しかし、やはり専門家でもなく、能動的に調べ物をしていたわけではなかったので、大学でウナギを専門に研究している方が書いた本書の内容は非常に新鮮な内容が多かったです。

市場に流通するウナギの半分~7割は違法ウナギ

特に私としては、シラスウナギの密漁などの違法行為が行われていることは知っているものの、市場に流通するウナギの半分以上が違法に漁獲されたものであること、それが放置されている現状までは詳しく知らなかったため、学術的知見を意図的に無視し既得権益を守ろうとする養鰻関係者や水産庁などについて、現実はここまで酷いのかと驚きました。

漁獲上限が過剰すぎて意味をなしていない

また、日本・中国・韓国・湾の4国間で養殖に用いても良いシラスウナギの量が定められているものの、上限の数字が過剰すぎて現状では半分ほどにしか届いておらず(上限78.8t、実際に要則上に入れられたのが2015年で37.8t、2016年で40.8t)が、制限が全く意味をなしていないというような、国として、国際社会としての取り組みが不十分であるということも、消費者として何かできるわけではないのがつらいところです。

代替品としてのナマズや完全養殖技術はウナギを救えるか

また、2章ではウナギの代替食品としてのナマズについて、4章では完全養殖についても触れられていますが、現状ではコストなどの問題も多く、不足を補う以上の期待をするのは難しいという見解もありました。とはいえ完全養殖についてはまだ実験室レベルでしか成功していないものであり、今後低コストでの完全養殖が成功する可能性も否定できないので、個人的には期待していきたいと思います。とはいえ、それが実現するとしても恐らく10年以上先の話であり、ウナギの絶滅とどちらが先か微妙なところではありますが・・・

消費者として私たちにできること

上記のように、市場に流通する時点で半分以上が違法行為に関わっているものであり、さらにそれを見分ける術も無いとなると、「ウナギを食べない」という選択肢以外は無いように思えます。実際、私はウナギを食べていませんし、食べる予定もありません。

一方で、本書ではウナギの保全に力を入れている企業の紹介もしています。私たちのよく知る企業の「イオン」は「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」という商品名で、指定業者が育てた養殖ウナギが他のルートと混ざらないように最後まで出荷されたものを発売しています。また、イオンは「2023年までに100%トレースできるウナギの販売を目指します」という声明を出しており、これを信じるならば、2023年以降にイオンでウナギを買えば違法行為に加担する心配はなくなるということになります。

正直、イオンがウナギの保全に一役買っているというのは意外に感じました。一方で、上記の取り組みはあくまで生産ルート情報の追跡ができるようにするというだけで、個体数の回復などが見込めるわけではないので注意が必要です。とはいえ、個体数の回復などについては法律面などにも影響を受けるので、小売業者としてここまでの取り組みができるのは素晴らしいことだと思います。

一方で、「グリーンウォッシュ」な取り組みによって、消費者から募金を募って実際には効果が薄いことを欺瞞的に行っているような会社があったりもしますので、それぞれの事業者の取り組みは注意深く、批判的な目で見ていく必要があります。

余談:水産庁と日本自然保護協会の意見の相違

本書の中でも、「水産庁や漁業関係者は短期的な利益しか見ておらず、今の状態が持続不可能であると自覚したまま改善策を図っていない」という旨の主張がありましたが、それを裏付ける以下のインタビューがあります。ネットメディアのねとらぼさんが水産庁と日本自然保護協会にそれぞれ同じ内容を質問したものです。

結局“絶滅危惧種”ウナギは食べていいのか 水産庁と日本自然保護協会に聞いてみた(1/2 ページ) – ねとらぼ (itmedia.co.jp)

このインタビューを要約すると、「直ちに絶滅するというものではない」「ただし不漁が続けば食卓から消える可能性はある」という点では両者の意見は一致しています。

一方で、水産庁は「消費者の買い控えなどの行動に意味はない」「絶滅危惧種への指定は法的な拘束力を伴わなず、禁漁にしようものなら養殖業者が打撃を受けてしまうためそのような施策は取らない」というような現状維持の姿勢を見せているのに対し、日本自然保護協会は「消費者の意識が変わることにも意味がある」「個体数の把握と持続可能なシステムが構築できていない今、ウナギを積極的に食べるべきではない」というように、双方の意見は真っ二つに割れています。

絶滅危惧種における「予防原則」

絶滅してしまった生き物は地球上にもう二度と姿を現すことがありません。絶滅してしまった後に生態系に何かしらの影響が出て、「あの生物は重要な役割を背負っていたんだ・・・」と発覚する可能性だってありますが、そうなったとしてももう取り戻すことはできません。

「この生き物は絶滅してしまうかもしれない」という視点で行動することを「予防原則」といいます。

昔はたくさんの個体がいたのにも関わらず、予防原則をとらなかったために絶滅してしまった生き物として、アメリカのリョコウバト、北太平洋のステラーカイギュウ、日本のニホンオオカミなどがあります。これらの中でも、ニホンオオカミの絶滅は現在の日本において鹿の大量発生していることにも関係しているとも考えられています。

特にウナギに関しては、日本ウナギも含むすべての種について生態が不明な点が多く、現在はかろうじて漁獲量を維持できているものの、ある時突然閾値を超えてしまい、絶滅への一途をたどってしまう可能性も否定できません。

「サスティナビリティ」などと口にしていると意識高い系のように思われることも未だ多いかもしれませんが、そのような考えを持って持続可能なレベルで資源を使っていくことが重要です。

最後に

ということで、今回は絶滅危惧種であるウナギについてどう向き合うかのスタンスを考えさせてくれる書籍「結局、ウナギは食べていいのか問題」を紹介しました。

私としては、ぜひ本書を手に取り、ウナギ問題と向き合う人が増えるといいなあと思っています。

Amazonや楽天で買えるほか、各自治体の図書館にも蔵書として置いてあることが多いようなので、夏休みの暇つぶしがてらにいかがでしょうか。150ページほどの手ごろなボリュームなので、隙間時間の読書にもおすすめです。

以上、線香花火でした!

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