【論文紹介】食虫植物にも麻酔が効く!?

生き物
https://www.irasutoya.com/より

「麻酔」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。

身近なところだと、手術をするときに使うものですね。あとは、クマなどの野生動物を捕獲するときに麻酔銃を使うこともあります。

そんな麻酔ですが、なんとエーテル麻酔がハエトリグサにも効くという論文がプレプリント掲載サイトの「biorxiv(バイオアーカイブ)」に掲載されていましたので、紹介したいと思います!

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そもそも、全身麻酔は人間にどのように作用するのか

そもそも、人類がずっと使用していた全身麻酔ですが、そもそも吸入式麻酔薬の仕組みが解明されたのは2020年のことです。

Studies on the mechanism of general anesthesia | PNAS

この論文では、脳神経細胞の細胞膜の一部を構成しており、中枢神経系で中心的な役割を果たしていた「脂質クラスター」(脂質が密集している場所)が麻酔成分によって破壊されることが発表されました。これにより内容物である「PLD2」という酵素などが放出され、その後「TREK-1」というタンパク質とPLD2が結合します。この結果、カリウムイオン(K+)が大量に放出されるとのことです。

我々の神経伝達系はカリウム、ナトリウムなどの金属イオンによって信号を伝えています。その金属イオンのバランスを崩すことで、意識を失わせるのが麻酔薬ということです。

植物には神経が無いとされている

一般的に、植物は神経を持たないとされています。しかし、外界からの様々な刺激に対応するために、細胞を電気的に興奮させます。そうすると、その電気刺激によってさまざまな反応を示します。

例えば、ヒマワリは日光をたくさん浴びるために太陽と逆側の茎をよく伸ばします。オジギソウは、雨風に耐えるために葉を閉じます(諸説あります)。

それと同じように、ハエトリグサは虫が落ちてきた衝撃を毛のような器官で感じ取ることで、口を閉じるのです。

少し話は逸れますが、植物はかじられたり引っこ抜かれたりという命の危機に瀕したときにも、上記のような応答をします。「植物は民を感じないから動物より植物を食べよう!」はほぼ誤りだと言えます。確かに脳はありませんけどね。

ハエトリグサに麻酔を吸わせたらどうなるか

https://unsplash.com/より

今回紹介する論文のタイトルは「Ether anesthetics prevents touch-induced trigger hair calcium-electrical signals excite the Venus flytrap」です。「trigger hair」はハエトリグサの内側に生えるトゲのことだと思うので、和訳するなら、「エーテル麻酔はハエトリグサのトゲに触ることで誘発されるカルシウムの電気信号を阻害する」あたりになるでしょうか。

ハエトリグサはトゲに触られた衝撃を電気信号に変えることで口を閉じますが、エーテル麻酔はその電気信号を阻害してしまうというのです。

論文によると、ハエトリグサの内側を触るのと、グルタミン酸を与えることによっても電気的興奮が得られるとのことですが、その状態でエーテルに曝露させることで電気信号が伝わるのが阻害されたようです。また、エーテルの無い新鮮な空気に晒すと、電気信号が完全に回復したとのことなので、この作用はエーテルの影響だと証明されたようです。

かなり専門的な内容になるので今回は割愛しますが、膜電位の消失について詳しく知りたい方は是非元の論文も読んでみてください!

この研究の共同研究者の1人、陽川憲先生の研究室により撮影された動画。葉っぱが閉じなくなる様子が確認できます。

最後に

植物先生の研究室が先生の研究室による動画です。にも麻酔が効くなんてびっくりですよね。また、麻酔の作用機序が判明した翌年にこのような研究が発表されるのも驚きです。

確かに植物も気孔から空気を取り入れて呼吸していますが、それと麻酔を結び付けて考える発想もすごいです。

当ブログでは今後もこのような面白い研究を紹介していきたいと思いますので、その際はぜひまたご覧ください。

ちなみにここでいうただ単に「エーテル」と表記されるときは「ジエチルエーテル」を指すことが多いです。発火しやすい物質なので、よいこのみんなはつかわないようにしようね。

以上、線香花火でした!

参考文献

100年以上の試行錯誤を経てようやくわかった、「全身麻酔」のメカニズム – ログミーBiz (logmi.jp)

植物は感じることが出来る? | みんなのひろば | 日本植物生理学会 (jspp.org)

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