光合成遺伝子を持たないウミウシが光合成をする!?【論文紹介】

生き物

こんにちは、線香花火です!

今回は、筆者の大好きなウミウシについての論文が出ていましたので紹介したいと思います!

先日モンハンについての記事で「盗葉緑体」について説明しましたが、その盗葉緑体について考えられていた定説が最新の研究により崩されたという内容です。ぜひ最後までご覧ください。

モンハンの方の記事はこちら

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そもそも「光合成」「葉緑体」とは?

前提知識として、光合成と葉緑体について軽くではありますが解説します。「もう十分知ってるよ!」って方は飛ばしていただけると幸いです。

光合成とは?

光合成は植物が自身の体を作るために行う反応の一つです。

空気中に二酸化炭素(CO2)がある状態で植物の光合成色素である「葉緑体」に光を当てることで、植物側は炭素(C)を吸収し、空気中に酸素(O2)を放出するという反応です。化学式だと以下のように表せます。

我々人間と同じように、植物もその体の多くが炭素(C)を基本骨格として構成されているので、光合成を行うことで体を成長させることができます(炭素固定)。

植物に骨はありませんが、その代わりに「セルロース」などの糖類から構成される「細胞壁」と呼ばれる強固な器官が全ての細胞に備わっており、これによって体を支えています。この糖類は人間には消化できない物質であるため、人間側の都合で「食物繊維」と呼ばれています。一方、草食動物たちはこれらからも普通にカロリーを得ることができます。

ちなみに、基本的に生物にとって酸素は毒です。「抗酸化作用」を謳う美容品が多いのも、生物は酸素によってどんどん壊れていくからです。とはいえ酸素を利用している生物はそこまで脆くはなく、体の中で悪さをする活性酸素をやっつける機能を持っています。

葉緑体とは

葉緑体は生物の細胞小器官の一つであり、光合成を行うのに必要とされています。

主に植物の細胞内に存在しており、植物が緑色に見えるのはこの葉緑体の色によるとされています。

葉緑体は細胞小器官の一つでありながら独自の遺伝子を持つことが知られており、植物の祖先と共生関係にあった微生物が共生したものと考えられています(同じように独自のDNAを持つ細胞小器官として、我々の細胞にも存在しており呼吸を司る「ミトコンドリア」があります)。

通常、葉緑体は植物が産生する酵素により光合成を行うことができているため、単離しても数日しか光合成を行うことができず、その後壊れてしまいます。この光合成に必要な酵素は植物側の核にあり、ほかの生物は持たないため、植物以外の生物が葉緑体を取り込んだからと言って、光合成を行って継続的に栄養を得ることは基本的にはできません。

研究の背景

・光合成は基本的に植物しか行えないが、嚢舌目のウミウシのみが動物で唯一「盗葉緑体現象」により光合成を行い、その活性も長いものでは数か月間保つことが知られていた。

・盗葉緑体現象の詳しいメカニズムは不明だったが、「藻類の光合成に関する遺伝子が水平伝搬(ウイルスを介すことなどで別の生物の遺伝子が組み込まれること)によりウミウシに組み込まれている」という説が有力視されていた。

今回の研究で何が分かったのか

・盗葉緑体を行うウミウシの1種のほぼ完全な遺伝子情報+もう1種のおおよその遺伝子情報を解析した!

・盗葉緑体を行うウミウシは、食べ物となる藻類由来ではなく、自前の遺伝子とそこから作られるタンパク質によって葉緑体を維持し、栄養を得ていることが分かった!

もう少し詳しく説明すると

盗葉緑体現象を行う生物は激レア

嚢舌目のウミウシはヤスリ状の歯を使って藻類の細胞に穴を空け、内容物を吸収します。吸収した内容物のほとんどが消化されますが、なぜか葉緑体だけは分解されずに残り、それどころかそのまま体内に数日~数か月(最長記録は10か月!)ウミウシの体内に葉緑体が残留し続けます。通常、葉緑体は植物体内から抽出すると数日で壊れてしまうほど不安定な物質なので、これは異常といえます。

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出典:https://www.nibb.ac.jp/press/2021/05/27.html
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出典:https://www.nibb.ac.jp/press/2021/05/27.html

一方で、ほかの動物へ葉緑体を導入しようとしても、今のところ上手くいっていないようです。自然界では他にも盗葉緑体を行う生物はいますが、ウミウシほどの複雑に進化した生物でそれが起こるのは、進化について考える上で重要だといえます。

遺伝子の水平伝搬

また、一部のウイルスによってほかの生物の遺伝子が組み込まれてしまう現象(遺伝子の水平伝搬)が知られていました。このあたりはシャロン・モレアム氏の「迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか」の第6章に面白く詳しく記載されていますので、興味のある方はぜひこちらも読んでみてください。機会があればブログ内でも紹介したいと思います。

 
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被食者側の生物の遺伝子が捕食者側の生物の遺伝子に組み込まれることは知られているようで、例えばマダニは脊椎動物しか持たないホルモンを持っていたため、脊椎動物のホルモン遺伝子が水平伝搬したものと考えられています。

以上のような傍証から、盗葉緑体を行うウミウシは光合成を行うための各遺伝子を藻類から得ていると考えるのが研究者の間でも一般的だったようです。

ウミウシは藻類から光合成遺伝子を譲り受けていなかった!

その定説が今回の研究で覆されました。今回の研究の主対象になった「チドリミドリガイ」の遺伝子は、抽出方法が確立されていないなどの要因で今まで全容が分かっていなかったのですが、今回の研究で遺伝子情報が解析されました。そしてそれをもとに、藻類の遺伝子に由来する遺伝子があるか網羅的な探索が行われました。

その結果、チドリミドリガイには、藻類の光合成関連遺伝子は見つからなかったとのことです。加えて、葉緑体側にも藻類が持つ光合成遺伝子があるか調べたところ存在しなかったので、葉緑体側が適応したわけでもないことが考えられます。

また、嚢舌目のウミウシであり盗葉緑体を短期間しか保てない「コノハミドリガイ」の遺伝子と比較した際、チドリミドリガイには「タンパク質代謝」「酸化ストレス耐性」「自然免疫」関連の遺伝子が特に多様化して発現しており、これらが葉緑体の維持に役立っている可能性が示されました。

特に光合成において酸素は必ず出るものであるため、それに自身が傷つけられないための酸化ストレス耐性、光合成関連タンパク質を生み出すためのタンパク質代謝と考えると、筋も通っています。

例えるなら・・・

藻類や植物を太陽光発電所の設備一式として考えるとわかりやすいかもしれません。

盗っ人であるウミウシは、太陽光発電所からソーラーパネルを盗みますが、送電線を始め、電気を作り出すための設備は持っていません。

従来は、「設計図ごと発電所から盗んじゃおう!」と、盗んだ設計図で設備を製造していると考えられていました。

しかし本当のところは「無いなら考えて自分で作っちゃおう!」と、自費で諸々の設備を設計・製造し、発電所として稼働させてしまった・・・というところでしょうか。

最後に

ということで、今回はウミウシの盗葉緑体についての最新の研究について紹介しました。

この研究により、植物由来の遺伝子を持たずとも、複雑な動物が光合成を行える可能性が示唆されました。

将来的には、牧場の豚や牛に光合成をさせ、エサも少なく済む上に葉緑体由来の栄養素まで取れるなんて時代も訪れるかもしれません。

今後の研究に期待ですね!

以上、線香花火でした!

参考文献→プレスリリース – 光合成するウミウシ、チドリミドリガイのゲノム情報を解読 〜光合成能は藻類遺伝子が宿主動物の核へ水平伝搬した結果であるという従来の説を覆す〜 (nibb.ac.jp)

元論文→Chloroplast acquisition without the gene transfer in kleptoplastic sea slugs, Plakobranchus ocellatus | eLife (elifesciences.org)

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